ゲーテのファウスト第一部 魔女の厨(くりや)では3行3列のマス目に数字が入った図表が登場します。初めは左の図表の上のように綺麗に並んでいますが、それを魔女はあるテキストを朗読しながら操作して、下の方の表に変えてしまうのです。(このところはゲーテを研究したルドルフ・シュタイナーの考えを元にしています)

 「一を十となせ、二を去るにまかせよ、三をただちにつくれ、しからば汝は富まん、四は棄てよ、五と六より七と八を生め。かく魔女は説く。かくて成就せん。すなわち九は一にして、十は無なり。これを魔女の九九という。」
 
 完成品は、下の図表になります。
縦と横にそれぞれ数字を足すと全てが15になっています。通常の3次魔方陣と異なるのは中心が5ではなく7であること、そして、斜めに足すと15にならない箇所が対角線上に一つあることです。

「一を十となせ」:1を10に置き換える
「二を去るにまかせよ、三をただちにつくれ しからば汝は富まん」:1+2+3=6、より10+2+3=15に増えるので得をする。
「四は棄てよ」:4は2行目からは棄てて、3行目の最後の端に持って行け。元の4は無くなるので0とする。
「五と六より七と八を生め」:5と6は7と8に交換せよ。
「かく魔女は説く。かくて成就せん」:このように操作すれば魔女の魔方陣が出来上がる。
「すなわち九は一にして、十は無なり」:これら9マスで1セットとなり、10マス目以上は存在しない。
「これを魔女の九九という。」:これを魔女の九九(方陣)と呼ぶ。

 通常の(3次)魔方陣は5を中心にして縦横斜めが全て15になるのに対して、魔女の九九と呼ばれる方陣は7を中心にして1が10に、9が0に化けている上に対角線上の合計が21になってしまうのが特徴です。

 「ひふみ算」では9÷9は商が1で余りは0ですから 9の商は1です。(すなわち九は一)また、1=10と初めに出てきますが、ひふみ算(mod 9)では10は1でもあるのです。すなわち10÷9は商が1で余りは1ですから、10=1になるのです。(一を十となせ)
この点は、ユダヤ教の神秘思想にあるカバラ式計算と同様です。例えば、2012年8月15日と言う数字をカバラ算では、2+0+1+2+8+1+5=19、1+9=10 すなわち、1に置き換えるのです。位(桁)に関係なく数字を足せばよいので簡単です。
 
 ファウストにおいて魔女が朗時に使用したテキストは古代ギリシャの神話であろうと言われています。ゲーテが数学上に言う(mod 9)に何らかの魔力を見ているのは確かなことのようです。ただし、インドのヴェーダ思想や日本の古神道の「ひふみ算」の存在には気がついてたかどうかは不明です。
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<参考>
 一般に数学上では合同式(≡)という概念があります。
『n は正の整数であるとする。
このとき「整数a、b がn を法として合同である」とは a−b が n のある整数倍になることであると定める。
そのとき a ≡ b (mod n) と書く。
a ≡ 0 (mod n) とa がn で割り切れることは同値であり、
a ≡ b (mod n) とa、b のそれぞれをn で割った余りが互いに等しいことは同値である。』

 この場合「法」とは割り算の分母となるnを意味していて、例えばaという大きな数があれば、それをnで割った余りのbに置き換える操作となります。
「ひふみ算」や「カバラ算」はこの「法」nを9に特定したものに該当します。その(mod 9)の場合には、10進法表示の桁を無視して足し算することで答えが早く出せるという特性を持っています。そして、綺麗に割り切れた場合は0となるので9=0と考えるコトが出来るので、すべての正数が0から8の9つの数字で一桁にして表わせることになるのです。(2011.2.3 追加修正 千々松 健)

  
「シュタイナーの遺した黒板絵」 「9★魔方陣」